虚ろな目のままで少女は大人になる
300万円あればスイスで安楽死できると聞いたそのときから、とても生きやすくなった。
今まで死ぬまで生きなければならないことが苦痛でしょうがなかった。
ひとりで生き抜く気概がないのに誰からも欲されないし自分自身誰も欲していない。
いずれ働けなくなったとき、老後穏やかに過ごせるような貯えはきっとなく、どこかのアパートを事故物件にしてしまうのだろうなと憂鬱な気持ちになることたびたびであった。
いや、屋根のあるところに住めていると思うな。住所などないかもしれない。
路上で寒さ暑さに耐えながらじりじりと体力気力をそがれ、道行く人に顔をしかめられながら煙たがられながら死んでいくかもしれない。どのみち周囲に迷惑だ。
でも、300万円あれば。
どうしようもなくなったとき、もう1秒だって生きていたくない、なにもかも終わりにしたい、そんなとき300万円あれば自分の意志で、ぼろ雑巾みたいになる前に(死にたくなっている時点ですでにぼろぼろではあるが)死を選べるのだ。これを希望と呼ばずしてなんと呼ぼう。
もう大丈夫。死ぬまで生きなくてもいい。いやまあ死ぬまでは生きるんだけど、その死を自分で手繰り寄せることができる。タイミング自由自在。
300万円の貯蓄という働く目的も生まれ、がぜん元気になった。
死ねることで生きる気力が湧いてくるというのもはたから見たらおかしな話だ。
でもなんでもいい。救われたのだ、とても。そのときまでは好きなように生きるのだ。
あんなに好きだったけどきれいきもいきらい
言わなくてもいいことだった。
うっとうしいと思われているかもしれない。
うまく立ち振る舞えない。
しでかしてしまったことを忘れてもらえるよう、
また明日からしずかに息を殺して生きていかなくては。
誰にも嫌われたくないのにどうしてほかの人のように
ちゃんとできないのだろう。
こんな気持ちになるくらいなら人と会わないほうがいい。
嫌われる前に姿を消して最初からいなかったことにしてしまいたい。
ひとが嫌いなわけじゃなくてひとに嫌われる自分が嫌い大嫌い気持ち悪い。
ときめきは毒になる
昨日は人とお酒を飲んだ。
人と話しながら上手に食事ができない。
誰かが話しているときは食べ物に手を付けてはいけない気がするし、
自分が話す番のときは当然食べられない。
だから必然的にお酒ばかりをがぶがぶ飲むはめになるのだけれど、そうすると、
必要以上に酔っ払い、陽気になり、我を忘れ、翌日とてもとても後悔する。
LINEグループができた。
グループでのLINEは、誰かの出方をみながら、それに倣って
返事をすればいいので楽だ。流れを人にゆだねていいと思うと安心だ。
人のアイコンを見るのが好きだ。
あのちいさなまるがその人の象徴だと思うと面白い。
泣いても笑ってもあすは仕事だ。
一切合切奪ってよ
先日2000円のランチを食べた。意味がわからなかった。
量は少なくドリンクがつくわけでもなく椅子のかたいおしゃれな店だった。
あっちのドラッグストアのほうがトイレットペーパーが安いから少し遠回りしよう、とか、明日はポイント5倍デーだから金額が大きい買い物は明日にしよう、とかそういう普段の生活をなぎ倒されていくような気持ちになった。
生活に必要ない可愛い雑貨、きらびやかなコスメたち、それらをひとつも手に入れられないみじめさ。
休憩に、とカフェに入った。一番安いコーヒーを頼んだ。デザートは頼めなかった。
どうしても仕事に行けなかった。
朝の通勤時間帯にパジャマのままスーパーに行ったらお金が足りずヨーグルトが買えなかった。
セルフレジなのに店員さんを呼んだ。
帰り道、小雨が降っていたが傘がなかったので少し濡れた。不快だった。
いつもはたいてい日傘か折り畳み傘を持ち歩いている。
とつぜん雨が降り出して一つの傘に二人で入るとき、背が低いので、必死で腕を伸ばして持つことになるんだけれど、一緒にいる人は傘を持とうとはしなくて、わたしは高く高く傘をあげて、半分以上相手に傾けて、結構濡れることになる。
そんな些細なことで軽んじられているとおもう。
だんだん大事にされなくなるのは、ながく一緒にいるとあさはかさが露呈し、丁寧に扱うに値しない人間だと気づかれてしまうからだろう。
世間はいつだって正しい。
あなたのために蝶になって飛んでいけたなら
いつだってその場しのぎで生きている。
その瞬間をなんとなくやり過ごすことができればいい。
深く考えられない。
自分の考えだとか将来の展望だとかそういうものがわからない。
みにくく空っぽなことを見透かされそうで人に会うのが怖い。
休日は明るいうちに外に出る必要がなくていいね。
いっそ郊外に住もうと思うの
誰にも迷惑をかけずに生活できないのならもう生きていないほうがいい。
最近めっきり寒くなった。
お酒をたくさん飲んで歯をガチガチならしながら毛布にくるまる。
枕に顔をうずめて眠る。このまま息が止まればいいのにと思う。
最初からあなたなんて知らなきゃよかった
なんとなく前より仕事に慣れてきた気がしている。
役には立てていないけれど、昨日はあまり迷惑をかけずに済んだとおもっている。
「A子さんの恋人」5巻を読んだ。
なにひとつ無駄がなかった。すごい。
4巻までで提示されたさりげないエピソードや小道具ひとつひとつがいかされている。
A子もA太郎も他人からみたらとても身軽でなににも執着してないふうで、けれどいざというときに残す「大切なもの」が一緒なんだなって。
U子ちゃんかわいかったな。あんなのずるいよね。すきになっちゃうよね。
A君は察しがいいからすべてわかってしまうね。
床に本を並べるのはA子のやりかたで、だからうまくいかないのかな。
A君はA子とはちがう。本はきちんと本棚にしまう。
A君に預けてあるものがA太郎からもらったものだなんてやはりとんでもないなA子は。