絵画の海に溺れていく

エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』を見に行った。

原画はサイズの小さいものが多く、どれも気が遠くなるほど緻密に描き込まれていた。

『うろんな客』について、「児童書のつもりで描いたのに周囲にそう思われず不思議」というエピソードがあって口元が緩んでしまった。

たしかにゴーリーの絵本のなかではかなりマイルドな作品だとおもう。生物が悲惨な死を遂げないし。

 

「意味のないものを作ることは難しい」とゴーリーは言っていたそうで、わたしみたいなクリエィティブの素養がないものが共感するのはおこがましいけれど、素直にそうだよなあと思ってしまった。

 

人間、ある程度の年齢になると普段の言動に常に理由を求められる。

「それで?」と詰められて言い淀んでしまうような発言や、「なぜ?」と問われて明確な目的を述べられないような行動なら、いっそしないほうがマシであるという風潮のなかで生きている。

 

その点、ゴーリー作品では突然へんちくりんな生物が登場したり、何の罪もないこどもたちが苦しんで死んだりする。

そこには秩序も教訓もいっさい存在しない。

「それで?」、「なぜ?」のオンパレードだ。

 

人は歳をとるごとに感受性を削り取られて、そのうすくなった部分を覆うべく社会性だとか生産性だとかそういう意味のある類のものをどんどん身に着けていく。

そうなってしまうと「意味のないものを作る」なんて意味のないことはできない。

そもそも「意味のない」ものが何なのか、その認識すら危うい。

けれど一見すると突飛で脈絡のないゴーリーの作品に触れることで、それまで忘れていた「意味のないもの」たちを目の当たりにすることができる。

ページをめくるたびに飛び込んでくる無秩序で不穏なユーモアが心地よくてたまらない。

 

要約すると、とても見ごたえのある展示だった。

八王子という場所も手伝ってか、人がそれほど多くなく、ひとつひとつの作品をじっくり見ることができたのもよかった。

ミュージアムショップも垂涎ものだったけれど、現金の持ち合わせがあまりなく、当然のことながらクレジットカードも使えなかった。痛恨のミスである。

1000ピースパズル欲しかったな。あと『子供部屋の壁紙』のマスキングテープ。

 

将来自由に改装できるような家を手に入れた暁には、ぜったいに『子供部屋の壁紙』をはるぞ。